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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和53年(ワ)77号 判決

原告

椎木一馬

被告

花田実

主文

1  被告は、原告に対し、金三一万二、六〇三円及びその内金二七万二、六〇三円に対する昭和五三年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを一〇分して、その三を被告の、その余を原告の各負担とする。

4  本判決主文第1項は、仮りに執行することができる。

事実

原告は「被告は、原告に対し、金一四六万一、九〇〇円及び内金一三一万一、九〇〇円に対する昭和五三年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、

一  原告は、昭和五〇年五月六日午後七時三〇分頃、嘉穂郡筑穂町元吉三軒屋先道路上の交さ点を、普通乗用車を運転して進行中、被告の未成年の子である訴外花田実崇が自動小型二輪車(福岡ま二三九一)を運転し、「停止」の道路標識にも従わず漫然と右交さ点に進入して来て、右原告の乗用車に衝突した。

二  その結果、原告は、頭部・顔面各打撲創の傷害を負い、また原告所有の右乗用車が損傷した。

三  被告は、右加害車の運行供用者であり、また訴外実崇(未成年)の親権者として監督責任を負うものである。

従つて被告は、自賠法三条により賠償責任を負うと共に、親権者としての監督責任を負うものとして、民法七〇九条、第七一四条一項本文により、原告に対する損害賠償責任を負う。

四  原告の治療経過及びうけた損害は、別紙1記載のとおり。

五  原告は、自賠責保険金から八〇万円の支払いをうけた。

六  よつて被告に対し、別紙1記載の金額から、前項記載の八〇万円を差引いた一四六万一、九〇〇円及び内弁護士費用一五万円を除いた一三一万一、九〇〇円に対する事故発生の後である本訴状送達の翌日(昭和五三年七月九日)から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

と陳述し、被告主張の抗弁事実を否認し、証拠として、甲第一ないし第四号証、同第五号証の一、二、同第六ないし第一三号証を提出し、証人内山泉、原告本人の各尋問を求め、乙第一ないし第三号証、同第七ないし第一二号証の成立(第一一、第一二号証は原本の存在も)認めるがその余の乙号各証の成立は不知と述べた。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

一  請求原因事実中、原告主張の日時・場所で、原告の運転する乗用自動車と、被告の子(当時一六歳、嘉穂農業高校二年生であつた)訴外花田実崇運転の自動二輪車の衝突事故が発生したこと、原告がこの事故で頭部・顔面の打撲創をうけたこと、原告が本件で八〇万円の自賠責保険金の支払いをうけたことは認める。その余は否認する。

二  訴外実崇運転の自動二輪車は、同人の所有で、運行供用者も同人である。また、訴外実崇は当時一六歳(高校二年生)で、行為の責任を弁識するに足る知能をそなえていた。

三  本件事故は、専ら原告の過失により発生した。即ち、当時本件事故現場に「停止」の道路標識はなく、かつ、原告は、当時工事のため、全面通行禁止となつている道路を運転通行していた。そうして、見通しの悪い本件交さ点に左右の安全も確認せず強引に高速進入して来たものである。

と陳述し、更に抗弁として、

一  仮りに未成年者訴外実崇に責任がない場合にあたるとしても、被告は、国鉄職員でもあり、安全運転の大切さは十分にわかつているもので、子訴外実崇にも常々安全運転をするよう訓戒し、教育して来た。従つて、仮りに本件事故につき訴外実崇にも過失があつたとしても、民法第七一四条一項但書により被告に賠償責任はない。

二  仮りに被告に賠償責任があるとしても、前記の通り本件事故について原告にも重大な過失があり、損害賠償額を定めるにあたり十分に斟酌されなければならない。

と主張し、証拠として、乙第一ないし第一二号証を提出し、証人花田実崇、被告本人の尋問を求め、甲第一、二号証、同第四号証、同第五号証の一、同第六号証、同第八号証、同第一一ないし第一二号証は成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一  請求原因事実中、昭和五〇年五月六日午後七時三〇分頃、嘉穂郡筑穂町元吉三軒屋先道路上の交さ点で、原告運転の乗用自動車と、被告の未成年の子である訴外花田実崇運転の自動二輪車とが衝突する事故が発生したこと、原告がこの事故で頭部、顔面の打撲創をうけたこと、この事故により、原告が自賠責保険金八〇万円の支払いをうけたことは、当事者間に争いがない。

二  成立に争いなき乙第二、甲第一号証、乙第七ないし第九号証、証人花田実崇、原告本人の各供述の各一部によると、本件事故現場は、東方筑穂町元吉方面からの道路(幅約六・二m)と西方同町馬敷方面からの道路(幅約九m)、南方同町山口方面からの道路(幅約八m、両端から一・三mのところに夫々路側線がある)北方同町大分方面からの道路(幅約八m、東端から一・三mのところに路側線がある)が直角に交さするアスフアルト舗装の交さ点である。非市街地で、信号機の設置もない。まわりは西南側と東南側が山林であり丈の高い雑草が生育していた。西北側は民家があり、東北側は畑である。西北角と東南角にカーブミラーが設置されていた。山口方面からの道路については、交さ点に入る個所の左側半分に工事中通行止めの柵が設置されていた。原告は、山口方面から、訴外実崇は元吉方面から、夫々交さ点にさしかかつたのであるが、この両方の道路相互の見通しは大へん悪かつた。なお、訴外実崇は後部に訴外内山泉を同乗させていた。そうして訴外実崇は、時速四〇km位で交さ点にさしかかり、左側山口方面からの道路には通行止めの柵があつたので、この方面から来る車はないものと軽信し、右側大分方面に通ずる道路からの交通がないことのみを確認して、左側山口方面からの道路には注意を払わず道路中央部を進行して交さ点に入つたとき、左側から原告運転の乗用自動車が通行止め柵のない道路右側から交さ点に進入して来ているのを発見し、避けるひまもなく自己運転の自動二輪車の前部を、原告乗用車の右側に衝突させた。原告も、乗用自動車(トヨペツトコロナマーク2、福岡五六さ五六七四)を運転して、見通しの悪い右側(元吉方面)からの車両の通行状況を確認しないまま、毎時四〇km位の速度で進路前方の通行止めの柵を迂回して道路の右側から交さ点に進入したところで右側から来る訴外実崇の二輪車を発見したが、避けるひまもないまま自己の車の右側中央よりやや前方よりのところに右実崇の車両を衝突させ、その後制動したが約一三・五mのスリツプ痕を残し、後部を左方に半回転させて停止した。これにより訴外実崇の車は前部を大破し、原告の車も右側面に凹損を生じた。そうして訴外実崇、同乗の訴外内山泉はいずれも路上に投げ出されて負傷し、原告も前記の通り負傷した。原告が交さ点の手前でライトを点滅させ、クラクシヨンを鳴らして合図をしたとか、訴外実崇が、交さ点に入る前に速度を毎時一五km位に減速したとかいう原告本人や証人実崇の供述をはじめ、以上の認定に反する原告本人、証人実崇の各供述部分はいずれも採用できない。他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

してみると、本件事故については、原告、訴外実崇共に過失があつたということができる。なお原告が進行して来た道路について当時全面通行禁止であつたとする被告本人の供述、乙第四、第五、第六号証、同第九号証については、その終期が必らずしも明らかでなく、道路管理者による通行禁止の具体的な事実関係も明らかでないので採用しない。

三  前掲乙第八号証によると、訴外実崇は昭和三四年三月二日生れの高校生(当時二年生)であつた。そうだとすれば、訴外実崇は本件加害行為の法律上の責任を弁識し得る知能を有していたとみるのが相当である。従つて、民法七一四条一項但書についての被告の抗弁を判断するまでもなく、被告は、監督者責任を負うものではない。

しかし、右乙第八号証、成立に争いなき甲第四号証、被告本人証人実崇の各供述の各一部によると被告は本件自動二輪車を息子である訴外実崇の通学用に買い与えた。その際、訴外実崇は後でアルバイトをして被告に戻すから購入費を貸してくれと言つたような事実も認められるが、現実には訴外実崇は父親(被告)と同居し、独立した収入があるわけではなく、自賠責保険契約も被告がなしている事実が認められ、維持費等も実質的には被告が負担していたと推認される。そうだとすると、被告は、本件自動二輪車の運行供用者であつて、自賠法第三条に基く責任を免れ得ない。

他に全立証を検討しても、被告の監督者責任の存在を肯認するに足る証拠はない。

また、被告の運行供用者責任について、被告本人、証人実崇の各供述中、以上の認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

四  原告の治療経過並びに損害について。

1  成立に争いなき甲第六号証によると、原告は、本件事故による傷害の結果、事故当日(昭和五〇年五月六日)から同年六月三〇日まで五六日間、山田市鎌田医院に入院し、その後同年七月一日から同年八月一一日まで通院して治療をうけた(実日数一四日)。また昭和五〇年五月六日から二〇日間は、付添看護を要する症状であつた。昭和五〇年八月一一日治癒。この認定を左右するに足る証拠はない。

2  成立に争いなき甲第一三、第一一、第一二号証、同第二、第六、第八号証、原告本人の供述、弁論の全趣旨により成立を認める甲第九号証と弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。この認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  原告は、当時株式会社ベスト電器に勤務し、事故前の昭和五〇年二ないし四月の給与は平均七万六、八九二円であつた。本件事故のため、昭和五〇年五月七日から同年七月一五日まで七〇日間休業しその間二万〇、八二四円を支払われたに止つた。従つて、休業損害は、五月分三一分の二五(六万二、〇〇九円)、六月分一カ月分、七月分三一分の一五(三万七、二〇五円)の合計一七万六、一〇六円から受領額二万〇、八二四円を差引いた一五万五、二八二円となる。

(二)  原告は、前記入院期間中一日平均五〇〇円の割合による入院雑費を支出したと認められ、原告主張の二万四、〇〇〇円はこれを肯認できる。

(三)  原告は、前記付添看護を要する期間姉由美子の付添をうけた。その費用相当額は、一日二、〇〇〇円の合計四万円と認めるのが相当である。

(四)  原告の前記入・通院による治療費支出額は、すくなくとも四七万二、五〇〇円を下らなかつた。これを超える額は、確認できる証拠がない。

(五)  原告は、本件受傷の結果、相当の精神的苦痛を蒙つたもので、以上受傷の部位、程度、入・通院期間その他の事情を考慮し、その慰藉料額は、五〇万円と認めるのが相当である。

(六)  物損については、被告は、責任を負わない。

3  前記の通り本件事故の発生には原告にも過失が認められるので、前記認定の状況を考慮し一〇%の過失相殺をなすを相当と認める。よつて以上合計一一九万一、七八二円から右過失相殺を行うと一〇七万二、六〇三円(円未満切捨)となり、これから前記自賠責保険金受領分八〇万円を差引くと二七万二、六〇三円となる。この認定を左右するに足る証拠はない。

4  原告が原告訴訟代理人に訴訟委任をして本訴を追行して来たことは記録上明らかで、相当額の弁護士費用を負担したものと認めるが、本件事故と相当因果関係ある損害として被告に負担を命ずる額は、右認容すべき額を考慮し四万円と認める。この認定を左右するに足る証拠はない。

五  以上の理由により、被告は原告に対し損害賠償として前項3、4の合計三一万二、六〇三円と、これから弁護士費用を除いた二七万二、六〇三円に対する本件事故発生の後である昭和五三年七月九日(同月八日、本訴状が被告に送達されたことは記録上明らかである)から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いをなすべき義務があり、本訴請求は右の支払いを命ずる限度で相当としてこれを認容し、その余は棄却することとして、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 岡野重信)

(別紙1) 損害関係表

〈省略〉

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